音更の小麦農家の家とパン屋さん(ピリカアマム)/N様邸

空と畑だけの風景の中に明るい白壁が映えるN様邸。北海道、十勝・音更町で40代のご夫婦と2人のお子さんが暮らしています。ふたつの屋根からカーポートまで続くフォルムが美しく、西洋を思わせる十勝の風景によく馴染む外観です。

今回は、ウッドライフが設計施工を担当したN様邸と、同じく当社が設計施工を担当、ご夫婦が運営されている無農薬小麦を使ったパン屋さん、pirkaamam(ピリカアマム)をご紹介します。


外出から帰れば、まるで一枚の絵画のような風景がお出迎え。農村部に建つN様邸ならではの贅沢です。

玄関を入るとまず迎えてくれるのがテラコッタ調の床タイルです。無垢材の床、天然木のドアと少しずつ深くなる茶系の色味に、温かく奥へと誘われるような感覚を覚えます。

印象的なふたつのアーチは、施工を担当したウッドライフの得意なスタイル。間に作られたニッチがアンティークな雰囲気です。

ご主人のお仕事は小麦農家。左はお客様も利用する通常の玄関、右は農作業後に利用する玄関と、用途別に使い分けられるよう緩やかに仕切りました。

底が深く汚れ物を洗いやすいスロップシンク(SK)。奥には農作業着などを洗う洗濯機もあり、汚れたものを家の奥に持ち込まないための工夫がされています。農家さんだけでなく、小さなお子さんがいるお宅でも役立ちそうなスペースです。

扉を開けると広がるLDKは、木をふんだんに使い、温かみのあるカントリー風の雰囲気。白を基調とした明るい空間を、ダークブラウンの梁や柱、ソファと壁紙のカラーとが引き締め、どこかモダンで垢抜けた印象になっています。

家づくりではデザインを重視したという奥様。家づくりを検討中に、帯広市内で見かけた三角屋根の住宅に一目惚れし、なんとお宅の扉をノックして、どこの住宅会社で建てたのかお聞きしたのだそうです。建て主さんから「ウッドライフ」の名を聞くとすぐに、ウッドライフ主催の完成現場見学会(オープンハウス)を見に行かれたとか。

「くどくないナチュラルカントリーに」。ウッドライフの得意とする木の質感を活かしたテイストと奥様のセンスとが絶妙に絡み合い、甘すぎない落ち着きあるインテリアが実現しました。

加えられたアクセントカラーが温もりのある空間をすっきりと引き締めています。
リビングの窓は同じ大きさのものが三つ並んだデザイン。大きな窓とはまた違った、北国らしい心地よさを感じます。

センスの光る対面キッチン。奥様がインターネットで選ばれたという照明が空間にリズムを与えています。
構造的に必要なわけではありませんが、柱を立てたことにより空間が軽く仕切られ、カフェのような奥行きが感じられる仕上がりとなりました。

キッチンの横にはパントリーも設置。扉がないので調理中の行き来もスムーズです。常温で保管できる食材はここに収納することでキッチンが整理整頓できます。

明るい光の入るキッチンには、パンを焼くのが趣味だという奥様のためにガスオーブンや発酵器の置ける作業台を造作。パナソニックのシステムキッチンと組み合わせました。

作業台の下に整然と並ぶゴミ箱は、家を作る前から幅や高さを計測してぴったりと置けるように。上部の棚の高さも同様で、キッチンに立つ人にとって最も使いやすい形となっています。

脇坂と二人で探したベストな選択

奥さまがウッドライフのオープンハウスを見学に行って出会ったのは、同社の脇坂でした。

奥様から見た脇坂の印象は「説得力がある人」。自由に希望を聞いてくれる半面、要らないと思うものについては明確にプロとしての意見を言う人柄に惹かれたそうです。

例えばこちらの主寝室には、奥のクローゼットの手前に小さな書斎スペースが設けられています。

現在ではパソコンが置かれているこちらのスペースは、当時小学生だったお子さんが勉強できるようにと作られたもの。

3人のお子さんに自分の部屋を作ってあげたいという思いが家づくりのきっかけだったというN様ご夫妻に、脇坂は「子どもたちの年齢差を考えれば2部屋でじゅうぶん」とアドバイス。代わりにお子さんが独立しても使いやすいオープンスペースを作ったのです。

シーツも干せる二階のホール。真冬も洗濯物を干す場所に困らず、来客の目に入ることもありません。

住む方の趣味や好み、人となりを熟考し、その方になりきってプランを考えるという脇坂さんは「頭の中でふんわり考えていたものを具体化してくれた」と奥様。間取りなどこだわりの少ない点についてはおまかせしたそうです。

夢が広がるマイホーム計画ですが、さまざまな希望を予算内に収めるためには、どこにお金をかけ、どの部分を削るかという全体的な視点が欠かせません。

家づくりは、夢や理想と予算や暮らしやすさの間でベストな選択を探していくもの。

互いに率直に意見を言い合える「相棒」のような担当さんとの出会いが、希望を整理しこだわりをしっかりと実現する妥協のない家づくりにつながりました。

オーダーメイドの「小さなお気に入り」に日々触れる喜び

そんなN様が最もこだわったのは「ありきたりの既製品だけの家にしたくない」という部分です。

例えば写真の奥に見えるドアはFARMER’Sというカントリー家具の工房で職人が手作りしたオーダーメイド。一枚で空間の印象をガラリと変えます。

階段の脇の壁にはステンドグラスを埋め込みました。
窓から入る光と、洗面所側の照明。昼と夜とで異なる光源による輝きを見せ、小さいながらに存在感抜群です。

額縁に収まった絵のような鏡が印象的な洗面所。
白いホーローのシンクが、造作された木製の台と白壁にマッチしています。

色味に高さ、棚のサイズ、希望するシンクなど求めるものすべてに応えるオーダーメイドだからこその仕上がりです。

お手洗いも造作の手洗い台とホーローのシンクで統一しました。蛇口のフォルムも美しく、思わず手を止めて見入ってしまいました。

陶器製のプレートを使ったアメリカンスイッチは、見た目に温かみがあるだけでなく、指で触れるたびに上質なクリック感が味わえます。

「すべてがアメリカンスイッチでなくてもいいんです。ここぞというところに使うことで、時が経っても新鮮な喜びが得られる」と脇坂。

日常を特別なものにしてくれるのは、こうした小さなお気に入りなのかもしれません。

建築打ち合わせから生まれたパン屋の夢

さて、ご自宅が完成した後、N様ご夫妻は脇坂と一緒にもう一棟の建物を建てています。

それがこちらの平屋の建物。パン屋・pirkaamam(ピリカアマム)の店舗です。音更町東士狩で週に一度、水曜日にだけ開店する”幻の店”十勝の中でも知る人ぞ知るこだわりのパン屋さんです。

ご主人の栽培している無農薬小麦は、小麦の品質、安全性にこだわる全国各地のパン屋さんで使われていて、大半が道外に出荷されています。

日本国内で、無農薬小麦を栽培している農家は非常に少なく、全国各地から食材を厳選したいパン屋さんたちや、無農薬栽培の農業を体験したい、学びたいと思う国内外の方々からの関心も高いものがありました。そこで、その方々をWWOOF*として受け入れるため、この場所にあった古い建物を改装。宿泊や調理などができる建物にしようと考えました。当時はパン屋さんをやるつもりはなかったそうです。

*”Working Weekends on Organic Farms”の略称。有機農業の農場ボランティア。ホスト側は食事と寝床を提供する。

「滞在中のパン職人さんが焼く日数限定のパン屋をやるのもいいね」
そんな希望が生まれたのは、なんと詳しい建築打ち合わせの中から。やがて長年パン作りを習ってきた奥様がパンを焼くというお話になり、「作った小麦を地元の人に食べてもらいたい」というご主人の想いが実現することになりました。

ご自宅と同じテラコッタの玄関。おうちに招かれたような温かな雰囲気です。

木のナチュラルな質感にウッドライフが得意とするブルックリンスタイルを取り入れた店内。一足入ると、焼きたてのパンの香りでいっぱいです。

オーガニックな材料にこだわったpirkaamamのパンたち。店の佇まいのままのやさしい雰囲気で、小麦本来の深い味わいが楽しめます。

「どこで建てたの?」今度は聞かれる側に

ご主人が「夢を叶える手伝いをしてもらった」と語る店舗づくり。脇坂は家を利用して作るパン屋のイメージを膨らませるため、わざわざ遠方のパン屋さんなどを見学にも行ったそうです。

南側の窓には木製サッシを使いました。リビングルームのようなアットホーム感があります。

厨房はお客様から見えるようガラス張り。

左奥には農場ボランティアが泊まれるよう居室とバス・トイレも完備しています。

ナチュラルな雰囲気を大切にしながらも、ところどころに重めの質感でコントラストをつけた内装はお客様にも好評で、「どこの建築会社で建てたの?」と聞かれることも多いのだそうです。

二棟を担当したウッドライフの脇坂。
「家もそれぞれストーリーをもっている」という信念を胸に、打ち合わせの中から住み手の想いを掬い取り形にしています。

「お客さまにこだわりがあればあるほどいい家になる」と語るその思いがN様と出会い、二棟の建物として美しく結実しました。

ウッドライフのオープンハウス(完成現場見学会)ではpirkaamamのパンが振る舞われることもあるのだとか。何気なく訪れたその場所から、新たなストーリーが始まるのかもしれません。

pirkaamam
https://www.instagram.com/pirkaamam/?hl=ja

写真 Commercial Photo / Movie  SWITCH